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抜歯の前に知ってほしい!歯を残すための根管治療という選択肢

私たちは誰しも、自分の歯で食べ、笑い、話すことをできるだけ長く続けたいと願っています。しかし、虫歯や歯の神経の炎症、歯の痛みなどがひどくなると、「もう抜くしかないのでは」と考える方が多いのも事実です。歯科医院で「この歯は抜歯です」と言われると、多くの人がショックを受けます。しかし、本当にその歯を抜かなくてはいけないのでしょうか。
実は、抜歯を決断する前に「根管治療(こんかんちりょう)」という大切な選択肢があるのです。根管治療とは、歯の中の神経や血管が通っている「根管」と呼ばれる部分をきれいに掃除・消毒し、再び感染しないようにする治療法です。適切に行われれば、抜かなくても歯を長く使い続けることができる可能性があります。
ここでは、なぜ抜歯をする前に根管治療を検討すべきなのか、その理由や効果、治療の流れ、そして最新の研究データに基づいた根拠について詳しくお伝えします。
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歯を抜くという選択がもたらす影響
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歯を失うことは、単に「1本の歯がなくなる」というだけではありません。抜歯によって噛み合わせのバランスが崩れ、隣の歯や反対側の歯に負担がかかることがあります。結果として、他の健康な歯までもが動いたり、虫歯や歯周病が進行したりするリスクが高まるのです。
また、歯が1本でもなくなると噛む力が弱まり、食事の満足感が下がるだけでなく、消化にも影響を与えます。さらに、歯を失うことで顔のバランスが変わり、口元が老けて見えることもあります。
近年の研究では、歯の喪失が全身の健康にも関係していることが明らかになっています。例えば、噛む回数が減ることで脳の血流が低下し、認知機能の低下につながるという報告や、歯の本数が少ない人ほど糖尿病や心疾患のリスクが高いというデータも存在します。
このように、歯を失うことは「見た目」だけでなく「健康寿命」にも影響を及ぼす可能性があるのです。
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根管治療とは何か?その目的と基本原理
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根管治療は、一般的に「歯の神経を取る治療」や「神経の治療」と呼ばれています。歯の内部には「歯髄(しずい)」と呼ばれる神経や血管の組織が存在しています。この部分が虫歯菌や細菌感染によって炎症を起こすと、強い痛みや腫れを引き起こします。
感染が歯の根の先まで進むと、骨の中に膿の袋(根尖病変)ができ、やがて歯がグラグラしたり、噛むと痛いと感じたりするようになります。ここで「もう抜かないとダメだ」と思われる方も多いのですが、実はこの段階でも歯を残せる可能性があります。
根管治療では、まず歯の中の感染した神経や血管を取り除き、専用の器具で根管内部を清掃・消毒します。その後、再感染を防ぐために「ガッタパーチャ」と呼ばれる医療用のゴムのような材料で密封します。この工程によって細菌が再び侵入するのを防ぎ、歯を長期的に維持できるようにするのです。
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なぜ抜歯よりも根管治療が推奨されるのか
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① 自分の歯に勝るものはない
インプラントやブリッジ、入れ歯などの代替治療法がどれほど進化しても、天然の歯に匹敵する機能や感覚を完全に再現することはできません。自分の歯で噛む感覚、歯根膜(歯の根と骨をつなぐクッションのような組織)による噛みごたえの感覚は、人工物では再現不可能です。

② 体への負担が少ない
抜歯をしてインプラント治療を行う場合、外科的な手術が必要です。骨を削る工程があるため、全身的な負担も大きく、持病がある方にはリスクを伴う場合もあります。一方、根管治療は外科的侵襲が少なく、患者さんの身体への負担が軽いのが特徴です。

③ 費用面でのメリット
根管治療は、再治療やクラウン(被せ物)を含めても、インプラントに比べて費用が抑えられる傾向にあります。保険適用があるため、経済的にも現実的な選択肢となります。

④ 長期的な歯の保存
日本歯科保存学会のデータによると、適切に行われた根管治療後の歯の10年生存率は約85%と報告されています。特にマイクロスコープやニッケルチタンファイルなどの最新機器を用いた治療では、成功率がさらに向上します。

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根管治療の流れ
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①診断とレントゲン撮影
まず、歯の内部の状態を詳しく確認します。必要に応じてCTを撮影することで、根の形や感染範囲を3次元的に把握します。

②感染した神経の除去
麻酔を行い、感染した歯髄を除去します。細い根管内を慎重に清掃していきます。

③洗浄と消毒
細菌を完全に除去するために、薬液による洗浄と超音波を用いた消毒を行います。

④根管充填
清掃した根管内にガッタパーチャを詰め、密封します。これによって再感染を防ぎます。

⑤土台の築造と被せ物の装着
治療後は歯の強度が下がるため、コア(土台)を入れてからクラウン(被せ物)を装着します。これにより、噛む力にも耐えられるようになります。

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根管治療の成功率を高めるための最新技術
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現代の歯科医療では、顕微鏡(マイクロスコープ)を使った精密根管治療が主流になりつつあります。マイクロスコープを使用することで、肉眼では見えない細かな根管の分岐や感染部分を正確に確認し、より確実な治療が可能になります。
さらに、歯科用CTを用いることで、従来の2次元的なX線では見えなかった根の形状や病巣の広がりを立体的に把握できます。これにより、再発率を大幅に低減できることが報告されています。
また、ニッケルチタンファイルという柔軟な器具を用いることで、従来届きにくかった複雑なカーブを持つ根管でも効率よく清掃できるようになっています。

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再治療が必要になるケースとその対処法
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一度根管治療をしても、数年後に再び痛みや腫れが出ることがあります。これは、根管の奥に細菌が残っていたり、新たに感染したりすることが原因です。しかし、再治療によって多くの歯が再び機能を取り戻すことができます。
再治療では、古い充填材を取り除き、再度根管を清掃・消毒して新しい材料で密封します。近年では、マイクロスコープやCTを活用した「根管再治療」の成功率も向上しており、抜歯を避けられるケースが増えています。

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抜歯を選ぶ前に知っておきたい判断基準
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もちろん、すべてのケースで根管治療が可能というわけではありません。歯が縦に割れてしまっている場合(歯根破折)や、根の先の炎症があまりにも広範囲に及んでいる場合、歯を支える骨がほとんど溶けてしまっている場合などは、残念ながら抜歯を選択せざるを得ないこともあります。
ただし、その判断には正確な診査・診断が欠かせません。「他院で抜歯と言われたけれど、まだ残せる可能性がある」とセカンドオピニオンで救われるケースも多く報告されています。

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歯を守るために私たちができること
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根管治療はあくまで「歯を残すための最後の砦」です。その段階に至らないよう、日頃からの予防が最も大切です。定期的な歯科検診、正しいブラッシング、フッ素を活用した虫歯予防、そして早期発見・早期治療が、歯を守る第一歩です。
もし虫歯が深くなってしまっても、焦って抜歯を選ばず、まずは歯を残せる方法を歯科医と相談してください。根管治療は、あなた自身の歯を長く大切に使うための大きな希望になるはずです。

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まとめ
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・抜歯は最終手段であり、その前に根管治療という有力な選択肢がある
・根管治療は歯を内部から再生させ、再感染を防ぐ治療法
・適切な根管治療を行えば、10年以上機能を維持できる可能性が高い
・最新技術(マイクロスコープ、CT、ニッケルチタンファイルなど)で成功率が向上
・セカンドオピニオンで「抜歯回避」の可能性が見つかることもある
歯は、一度抜いてしまうと二度と元に戻ることはありません。あなたの大切な歯を守るために、抜歯を決める前に、ぜひ「根管治療」という選択肢を思い出してください。

当院のホームページでは、精密根管治療にも治療内容を載せておりますので、あわせてご覧ください
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参考文献
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・日本歯科保存学会 編「歯の保存を考える 根管治療の最前線」医歯薬出版
・Ng YL, Mann V, Gulabivala K. “A prospective study of the factors affecting outcomes of non-surgical root canal treatment: part 1” Int Endod J. 2011;44(7):583-609.
・European Society of Endodontology (ESE) Position Statement: “Quality guidelines for endodontic treatment” Int Endod J. 2019;52(9):1175–1184.
・日本歯内療法学会「歯内療法の成功率と予後に関するガイドライン」2020
・Torabinejad M, Corr R, et al. “Outcomes of root canal treatment and retreatment: a systematic review” J Endod. 2018;44(7):1052–1060.

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