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根管治療を成功させるために欠かせないラバーダムの重要性とは

歯の神経の治療、いわゆる「根管治療」を受けた経験がある方もいらっしゃるかもしれません。むし歯が進行して神経まで細菌が到達してしまった場合や、過去に治療した歯の中で感染が再発した場合などに行われる処置です。この治療は歯を残すための最終手段とも言われるほど重要ですが、非常に繊細で複雑な治療でもあります。そんな根管治療において、治療の成功率を大きく左右する器具が「ラバーダム」です。今回は、「なぜラバーダムが必要なのか」「どんなメリットがあるのか」「実際にどんなふうに使われるのか」について、患者様にもわかりやすく詳しく解説していきます。

ラバーダムとは何か
ラバーダムとは、治療する歯の周囲を覆って隔離する薄いゴム製のシートのことをいいます。一般的にはラテックス(天然ゴム)またはノンラテックス素材でできており、歯に専用のクランプをかけて固定します。その上からラバーダムシートを装着し、治療する歯だけを露出させるようにします。見た目としては、口の中で一つの歯だけが顔を出しているような状態になります。
このラバーダムの目的は、治療する歯を唾液や細菌から完全に守ることです。口の中には無数の細菌が存在しており、唾液の中にも多くの微生物が含まれています。根管治療では、歯の中にある細い管(根管)の中から感染した組織や細菌を取り除く作業を行うため、非常に清潔な環境を保つ必要があります。ラバーダムがなければ、唾液中の細菌が治療中の歯に入り込み、再感染を引き起こすリスクが高まってしまいます。

根管治療でラバーダムが必須である理由
根管治療は、ミクロ単位の作業が求められる非常に精密な治療です。根管の直径はわずか0.1ミリ程度しかなく、肉眼では見えないほど細い構造です。歯科医師は顕微鏡(マイクロスコープ)や拡大鏡を使用しながら、感染した組織を取り除き、薬剤で洗浄し、最後にしっかりと封鎖します。この一連の工程で最も大切なのが「無菌的環境の確保」です。
ラバーダムを使用することで、次のようなメリットがあります。

①唾液や細菌の侵入を防ぐ
唾液が治療部位に触れると、根管内に新たな細菌が侵入する可能性があります。ラバーダムを使えば、唾液を完全に遮断し、無菌的な状態で治療を行うことができます。

②治療中の誤嚥や誤飲を防ぐ
根管治療では、非常に細かい器具や薬剤を使用します。ラバーダムをしていない状態で器具を落としてしまうと、誤って飲み込んだり喉に詰まる危険性があります。ラバーダムを使うことで、器具が口の奥に落ちることを防ぎ、安全性が大幅に向上します。

③消毒薬や薬剤の刺激を防ぐ
根管内を洗浄する際に使用する薬剤は、非常に強い消毒作用を持っています。もし薬剤が口の中に流れ出してしまうと、舌や頬の粘膜を痛めることがあります。ラバーダムで隔離することで、これらのリスクを防げます。

④歯科医師の集中力が高まる
治療する歯だけが露出している状態になるため、歯科医師はより集中して作業できます。視野も明るくなり、マイクロスコープでの操作も精密に行うことが可能です。結果的に治療の精度が高まり、成功率の向上につながります。

ラバーダムを使うことによる治療成績の違い
実際に、ラバーダムの使用の有無によって根管治療の成功率に大きな差が出ることが、多くの研究で示されています。
例えば、European Endodontic Journalに掲載された研究によると、ラバーダムを使用した根管治療の成功率は90%以上であったのに対し、使用しなかった場合は70%(日本での保険診療の場合は抜髄で30~50%、感染根管治療で25~30%と記載されていることが多く、医院により差がある)にとどまったと報告されています。American Association of Endodontists(AAE:米国歯内療法学会)でも、根管治療時のラバーダム使用を標準的手技として推奨しており、国際的にもその重要性が認められています。
また、日本歯内療法学会も、根管治療時のラバーダム防湿を「基本的要件」として位置づけています。つまり、ラバーダムは「オプション」ではなく、「必ず使うべきもの」なのです。

ラバーダムをしない歯科医院があるのはなぜ?
ここまで読むと、「ではなぜラバーダムを使わない歯医者があるの?」と思われる方もいるかもしれません。その理由はいくつかあります。
まず、ラバーダムの装着には少し手間がかかるため、時間的・技術的なコストが増えるという点です。また、患者様の中にはラバーダムの装着に違和感を感じる方もいらっしゃるため、医院によっては省略してしまうケースもあります。しかしながら、治療の安全性と成功率を考えれば、ラバーダムを使わないという選択肢は本来あり得ません。

世界的には、ラバーダムの使用が根管治療の「スタンダード」となっています。日本でも専門医を中心に、ほとんどの歯内療法専門クリニックではラバーダムを必ず使用しています。

ラバーダムは痛い?息苦しくない?
初めてラバーダムを装着される患者様の中には、「息がしづらいのでは?」「苦しくないの?」と不安を感じる方もいます。しかし、ラバーダムを装着しても鼻呼吸は自由にできます。口全体を覆うため口呼吸は難しくなりますが、ほとんどの方がすぐに慣れます。また、装着時には歯科医師やスタッフが常に患者様の状態を確認しながら進めますので、安心して受けることができます。

根管治療は1回で終わることもあれば、数回に分けて行うこともあります。そのすべての治療ステップでラバーダムを使用することが、歯を長持ちさせるためには欠かせません。

ラバーダムを使用することのもう一つの利点:再感染の防止
根管治療を終えた後でも、再感染を防ぐことが非常に重要です。ラバーダムを使用することで、治療中に新たな細菌が入ることを防ぎます。つまり、ラバーダムを使うことで、治療が長期的に安定するという大きなメリットも得られます。

根管治療の目的は「痛みを取ること」だけでなく、「歯を可能な限り長く残すこと」です。そのためには、治療時の清潔さと精密さが何よりも重要なのです。

ラバーダムを使うことで得られる患者様の安心
患者様にとっても、ラバーダムの使用は大きな安心材料になります。器具や薬剤の誤飲の心配がなく、唾液の不快感もないため、治療中もリラックスして過ごせます。また、治療後の予後(治療結果)にも良い影響を与えます。
ラバーダムを装着しているからといって、治療時間が極端に長くなることはありません。むしろ、ラバーダムによって治療環境が整うことで作業効率が上がり、結果的にスムーズに終わることもあります。

ラバーダム使用は歯科医院の誠実さの証
ラバーダムを使う歯科医院は、科学的根拠に基づいた安全で丁寧な治療を提供している証でもあります。患者様が歯科医院を選ぶ際には、「根管治療にラバーダムを使用していますか?」と確認してみるのもよいでしょう。この質問に明確に「はい」と答えられる歯科医院は、根拠に基づいた治療(エビデンスベースド・デンティストリー)を行っていると考えられます。

ラバーダムを導入している医院では、治療の再発率が低く、結果的に患者様の歯の寿命を延ばすことができます。

まとめ
根管治療は、歯を失わずに残すための最後の砦です。その成功の鍵を握るのが「ラバーダム」です。ラバーダムを使用することで、唾液や細菌の侵入を防ぎ、薬剤の刺激を防ぎ、器具の誤飲リスクをなくします。さらに、歯科医師が集中して精密な治療を行える環境を整えることができます。
ラバーダムの使用は、国内外の歯科学会が推奨する根拠のある方法であり、世界標準の治療です。患者様自身の歯を長く守るためにも、根管治療を受ける際は必ずラバーダムを使用してもらいましょう。
もし現在治療中の医院でラバーダムが使われていない場合は、セカンドオピニオンを受けることをおすすめします。歯の健康を守るためには、確実で安全な治療を選択することが最も大切です。

当院のホームページでは、精密根管治療にも治療内容を載せておりますので、あわせてご覧ください

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参考文献
American Association of Endodontists. “Clinical Considerations for a Regenerative Procedure.” AAE Guidelines, 2021.
European Endodontic Journal. “Effect of Rubber Dam Isolation on the Success Rate of Root Canal Treatment.” 2018.
日本歯内療法学会. 「歯内療法の標準的手技ガイドライン」2020年版.
Ng YL, Mann V, Gulabivala K. “Outcome of secondary root canal treatment: a systematic review.” International Endodontic Journal, 2008.
Lin LM, Rosenberg PA. “Repair and regeneration in endodontics.” International Endodontic Journal, 2011.

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