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痛覚変調性疼痛とは?原因がわかりにくい痛みの仕組みと治療について歯科医師がわかりやすく解説

はじめに
「歯や歯ぐきに痛みがあるのに、検査では異常が見つからない」「治療を受けたのに痛みが続いている」「少し触れただけなのに強く痛む」。このような症状で悩んでいませんか?
痛みが続いているにもかかわらず、レントゲン検査や歯科診察で明確な原因が見つからない場合、痛覚変調性疼痛(つうかくへんちょうせいとうつう)が関係している可能性があります。
痛覚変調性疼痛は、神経そのものの損傷や炎症だけでは説明できず、痛みを感じる神経系の働きが変化することで生じる痛みです。決して「気のせい」や「我慢すればよい痛み」ではありません。
この記事では、痛覚変調性疼痛の仕組み、歯科領域で注意したい症状、一般的な痛みとの違い、診断や治療について、患者さんにもわかりやすく解説します。

痛覚変調性疼痛とは?
痛覚変調性疼痛とは、国際疼痛学会(IASP)が定義する痛みの分類の一つで、組織の損傷や、痛みを伝える体性感覚神経系の病変・疾患だけでは十分に説明できない痛みを指します。
簡単にいうと、痛みを感じる仕組みそのものが変化し、実際の組織の状態に比べて痛みを強く感じたり、痛みが長く続いたりする状態です。
通常、私たちの体には、けがや炎症などの異常を知らせるための痛みを感じる仕組みが備わっています。例えば、虫歯が進行して歯の神経に炎症が起きると、その情報が神経を通じて脳に伝わり、歯の痛みとして認識されます。
一方、痛覚変調性疼痛では、組織の損傷や神経の明らかな病変だけでは痛みを十分に説明できません。痛みを処理する神経系の働きが変化することが関係していると考えられています。
ここで重要なのは、痛覚変調性疼痛は「痛みの原因がまったく存在しない」という意味ではないことです。痛みを生み出す仕組みが、一般的な炎症や神経損傷による痛みとは異なる可能性がある、ということです。

痛みは本人にとって現実の症状であり、検査で異常が見つからないからといって、痛みそのものが否定されるわけではありません。
痛覚変調性疼痛は、慢性疼痛を理解するうえで重要な概念です。歯や口の中に続く痛みについても、歯科的な原因だけでなく、神経系による痛みの調節機能を含めて考えることが大切です。

痛みには3つの種類がある
痛覚変調性疼痛を理解するためには、まず痛みの種類を知っておくとわかりやすくなります。
国際疼痛学会では、痛みを理解するための代表的な分類として、侵害受容性疼痛、神経障害性疼痛、痛覚変調性疼痛を区別しています。

1.侵害受容性疼痛
侵害受容性疼痛とは、けがや炎症などによって組織が損傷したり、損傷するおそれが生じたりした際に、痛みを感じる神経が刺激されて起こる痛みです。
歯科領域では、虫歯による歯の痛み、歯周病による炎症の痛み、抜歯後の傷の痛みなどが代表例です。
このような痛みでは、虫歯や炎症、傷などの原因を確認できることが多く、原因に応じた歯科治療によって改善が期待できます。
ただし、組織の損傷が治ったあとも痛みが続く場合には、別の仕組みが関係していないか検討する必要があります。

2.神経障害性疼痛
神経障害性疼痛とは、痛みを伝える体性感覚神経系に病変や疾患が生じることで起こる痛みです。
歯科領域では、抜歯や外傷などのあとに三叉神経の枝が損傷した場合などが関係することがあります。
神経障害性疼痛では、焼けるような痛み、電気が走るような痛み、しびれ、感覚の変化などが現れることがあります。
ただし、症状だけで神経障害性疼痛と断定することはできません。神経の病変や疾患との関連を、診察や必要な検査によって評価することが重要です。

3.痛覚変調性疼痛
痛覚変調性疼痛は、組織の損傷や神経系の病変だけでは説明しきれない痛みです。
痛みを感じる神経系の処理や調節が変化し、痛みに対する感受性が高まることなどが関係すると考えられています。
例えば、歯科的な原因に対して適切な治療を行っても痛みが続き、繰り返し検査しても症状を十分に説明できる異常が見つからない場合には、痛覚変調性疼痛を含めて幅広く検討することがあります。
ただし、検査で異常が見つからないという理由だけで、この痛みと診断できるわけではありません。見つかりにくい虫歯、歯のひび、歯周組織の病気、神経障害性疼痛などを慎重に評価する必要があります。
また、3つの分類は必ずしも完全に独立しているわけではありません。一人の患者さんに複数の仕組みが重なっていることもあります。

なぜ痛覚変調性疼痛が起こるの?
痛覚変調性疼痛が起こる詳しい仕組みは、現在も研究が進められています。
痛みは、単純に傷の大きさだけで決まるものではありません。体から伝わる信号を脳がどのように処理するか、過去の痛みの経験、睡眠の状態、ストレス、気分など、さまざまな要因が関係します。
痛みが長期間続くと、痛みを伝える神経系や、痛みを抑える仕組みの働きが変化する場合があります。その結果、以前なら気にならなかった刺激を強く痛いと感じたり、わずかな刺激で痛みが生じたりすることがあります。
このような痛みの感受性の変化は、中枢性感作などの概念とも関連します。ただし、中枢性感作と痛覚変調性疼痛は同じ意味ではなく、すべての痛みがこの仕組みだけで説明できるわけではありません。
また、ストレスや不安が痛みに影響することはありますが、痛覚変調性疼痛を単に心理的な問題と考えるのは適切ではありません。生物学的な仕組み、心理的な要因、社会的な環境などが相互に影響することがあります。
つまり、痛覚変調性疼痛は、体と心を切り離して考えるのではなく、痛みを生み出す複数の要因を総合的に理解することが重要な状態です。

歯科で注意したい痛みの症状
歯科領域では、歯そのものに問題がある場合だけでなく、歯の周囲や顎、口の中に痛みが現れる場合もあります。
次のような症状がある場合には、痛みの原因を丁寧に調べることが大切です。
・歯の治療を受けたあとも、痛みが長く続いている。
・痛む場所を調べても、症状を十分に説明できる原因が見つからない。
・歯や歯ぐきに明らかな異常がないのに、痛みや不快感が続いている。
・軽く触れたり、普段の刺激を受けたりするだけで強く痛む。
・痛みが日によって変化し、睡眠不足や疲労などによって悪化することがある。
ただし、これらは痛覚変調性疼痛だけに特有の症状ではありません。虫歯や歯のひび、歯髄炎、歯周病、神経障害性疼痛、顎関節症などでも似た症状が起こることがあります。
症状だけで自己判断せず、歯科医師に痛みの始まった時期、場所、強さ、持続時間、悪化する条件などを伝えましょう。
歯の治療を繰り返しても痛みが改善しない場合には、追加の処置が本当に必要なのか、ほかの原因を考えるべきなのかを改めて評価することも重要です。

歯科治療後に痛みが続く場合は?
歯科治療後の痛みには、さまざまな原因があります。
例えば、根管治療後の炎症、歯のひび、噛み合わせの問題、感染、神経の損傷などが考えられます。まずは、こうした原因を適切に評価することが必要です。
一方、治療によって組織の状態が改善しているにもかかわらず痛みが続く場合には、痛みを伝える神経系の変化や、慢性疼痛の仕組みが関係している可能性もあります。
このような場合に大切なのは、痛みがあるからといって、必ずしも歯を削ったり、神経を取ったり、抜歯したりする必要があるわけではないということです。
もちろん、必要な歯科治療を避けるべきという意味ではありません。治療が必要な病気が見つかれば、適切な処置が重要です。
しかし、痛みの原因が十分に確認できないまま処置を繰り返すと、期待した改善が得られず、かえって歯や周囲の組織に負担をかけることもあります。
痛みが長引いている場合は、これまでの治療内容や検査結果を整理し、必要に応じて口腔顔面痛を専門とする歯科医師や、慢性疼痛を診療する医療機関に相談することをおすすめします。

痛覚変調性疼痛はどのように診断する?
痛覚変調性疼痛の診断では、症状だけで判断するのではなく、痛みの経過や診察結果を総合的に評価します。
まず、痛みがいつから始まったのか、どの場所が痛むのか、どのような刺激で痛みが強くなるのか、痛みが続く時間はどのくらいかなどを確認します。
次に、口の中の診察、歯や歯ぐきの検査、必要に応じた画像検査などによって、虫歯や炎症、歯のひび、神経の病変などがないかを調べます。
必要な場合には、口腔顔面痛や神経疾患、慢性疼痛などの専門的な評価を受けることもあります。
痛覚変調性疼痛には、すべての患者さんに共通して使える単独の確定検査があるわけではありません。そのため、診断には専門的な知識と、ほかの病気を適切に評価することが必要です。
特に、痛みがあるのに画像検査で異常が見つからない場合でも、検査だけで痛みの原因を完全に否定できるとは限りません。症状の変化を確認しながら、必要な評価を続けることが大切です。
患者さん自身が「これは痛覚変調性疼痛だ」と決めつけるのではなく、痛みの原因を一つずつ整理していくことが、適切な治療につながります。

痛覚変調性疼痛の治療方法
痛覚変調性疼痛の治療では、痛みを一時的に抑えるだけでなく、日常生活への影響を減らし、生活の質を改善することを目指します。
症状や背景は患者さんごとに異なるため、治療方法も一人ひとりに合わせて検討します。

1.痛みについて正しく理解する
治療の第一歩は、痛みが起こる仕組みを理解することです。
痛みが続いていると、「何か重大な病気が隠れているのではないか」「このまま治らないのではないか」と不安になることがあります。
しかし、痛みが続くことと、組織がずっと傷つき続けていることは、必ずしも同じではありません。
痛みを伝える神経系の働きが変化している可能性を理解することで、痛みに対する不安を整理し、治療の方向性を考えやすくなる場合があります。
これは、痛みを我慢することや、症状を軽視することを意味しません。痛みを現実の症状として受け止めながら、原因と対処方法を医療者と一緒に考えることが重要です。

2.薬物療法
痛覚変調性疼痛では、症状や併存する病気によって、薬物療法が検討されることがあります。
慢性疼痛の診療では、抗うつ薬や神経障害性疼痛に用いられる薬などが、痛みの種類や患者さんの状態に応じて使用されることがあります。ただし、これらの薬が痛覚変調性疼痛に対して一律に有効と確立しているわけではありません。
また、薬には副作用や使用上の注意点があります。歯の痛みに対して、自己判断で薬を増やしたり、他人に処方された薬を使用したりすることは避けましょう。
歯科的な原因がある場合には、その原因に対する治療が必要です。薬物療法を行う場合も、痛みの分類や併存症を考慮して、医師や歯科医師と相談しながら進めることが大切です。

3.心理的なサポート
慢性的な痛みが続くと、不安、緊張、睡眠の問題、気分の落ち込みなどが生じることがあります。また、こうした要因が痛みを強く感じることにつながる場合もあります。
必要に応じて、認知行動療法などの心理的な支援が治療の選択肢になります。
認知行動療法は、痛みそのものを否定する治療ではありません。痛みに対する考え方や行動、日常生活への影響を整理し、痛みがあっても生活を維持しやすくすることを目指します。
心理的な支援を受けることは、「痛みが気持ちの問題だから」という意味ではありません。慢性的な痛みを多面的に管理するための方法の一つです。

4.睡眠や生活習慣を整える
睡眠不足や疲労、過度な緊張は、痛みを感じやすくする要因となることがあります。
規則正しい睡眠、無理のない運動、適度な休息、ストレスへの対処などは、慢性疼痛の管理に役立つ場合があります。
ただし、生活習慣を整えれば必ず痛みがなくなるというわけではありません。必要な医療を受けながら、実行できることから少しずつ取り組むことが大切です。
また、歯や顎の痛みがある場合には、無理に顎を動かしたり、痛みを我慢して強く運動したりする必要はありません。症状に応じて、医療者と相談しながら活動量を調整しましょう。

5.多職種で連携した治療
痛覚変調性疼痛が疑われる場合には、歯科医師だけでなく、必要に応じて医師、ペインクリニック、口腔顔面痛の専門家、心理職、理学療法士などが連携して治療を進めることがあります。
痛みの原因が複数重なっている場合には、一つの治療だけですべてを解決することが難しい場合もあります。
そのため、痛みの軽減だけでなく、食事、会話、睡眠、仕事など、患者さんが日常生活で困っていることを確認しながら治療の目標を決めることが大切です。
痛みが完全になくなることだけを目標にするのではなく、痛みをコントロールしながら生活の質を改善していくことも、重要な治療目標となります。

患者さんが日常生活でできること
痛覚変調性疼痛が疑われる場合には、日々の症状を記録することも役立ちます。
痛みが起こった時間、痛む場所、痛みの強さ、睡眠の状態、食事や会話との関係などを記録しておくと、診察時に症状を説明しやすくなります。
また、痛みが強い日と比較的楽な日がある場合には、その違いを振り返ってみると、症状に影響する要因を見つける手がかりになることがあります。
ただし、痛みの記録を細かくつけること自体が負担になる場合は、無理をする必要はありません。簡単なメモでも十分です。
歯の痛みが続く場合には、痛みを感じるたびに歯を強く押したり、繰り返し触って確かめたりすることは避けましょう。刺激によって痛みが悪化する場合があります。
さらに、睡眠を確保し、休息を取り、可能な範囲で日常生活を維持することも大切です。痛みがあるからといって、すべての活動を中止しなければならないわけではありませんが、無理をする必要もありません。
症状が変化した場合や、新しい症状が現れた場合には、早めに医療機関に相談してください。

こんな症状がある場合は早めに受診しましょう
痛みが長く続いている場合でも、自己判断で様子を見続けるのは避けましょう。
特に、顔や歯ぐきの腫れ、発熱、膿が出る、口が開きにくいなどの症状がある場合は、感染などの病気が関係している可能性があります。
また、顔や首の腫れが急速に広がる、息苦しさがある、飲み込みにくいなどの症状がある場合は、緊急の診療が必要です。速やかに救急医療機関に相談してください。
突然の強い痛みや、新たなしびれ、顔の動かしにくさなどが現れた場合も、速やかな医療評価が必要です。
痛覚変調性疼痛は、ほかの病気を確認したうえで検討する概念です。痛みが長引いているからといって、すべてを痛覚変調性疼痛と考えるのではなく、症状に応じた適切な診察を受けることが重要です。

まとめ
痛覚変調性疼痛とは、組織の損傷や神経系の病変だけでは十分に説明できない痛みであり、痛みを感じる神経系の働きの変化が関係すると考えられています。
歯科領域では、歯の治療後に痛みが続く場合や、検査で明確な原因が見つからない場合などに、ほかの原因とあわせて検討されることがあります。
ただし、痛みの原因が見つからないからといって、すぐに痛覚変調性疼痛と診断できるわけではありません。虫歯、歯髄炎、歯のひび、感染、神経障害性疼痛などを適切に評価する必要があります。
痛みが続くと、不安になったり、日常生活に支障が出たりすることがあります。しかし、検査で異常が見つからない場合でも、痛みは本人にとって現実の症状です。
大切なのは、痛みを我慢したり、気のせいだと考えたりすることではなく、痛みの仕組みを理解し、自分に合った治療方法を医療者と一緒に考えることです。
歯や口の中の痛みが長引いている場合は、まず歯科医師に相談しましょう。必要に応じて専門医療機関と連携しながら、痛みの軽減と生活の質の改善を目指していくことが大切です。

参考文献
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2.Kosek E, Cohen M, Baron R, et al. Do we need a third mechanistic descriptor for chronic pain states? Pain. 2016;157(7):1382–1386.
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3.Kosek E, Clauw D, Nijs J, et al. Chronic nociplastic pain affecting the musculoskeletal system: clinical criteria and grading system. Pain. 2021;162(11):2629–2634.
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5.International Association for the Study of Pain(IASP). Classification of Chronic Pain, Second Edition(ICD-11).
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