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コーラをよく飲む人は注意!炭酸飲料と歯の健康の意外な関係とは?

コーラをはじめとする炭酸飲料は、多くの人にとって身近で手軽な飲み物です。特に暑い季節や疲れたときには、つい冷たいコーラに手が伸びてしまうもの。しかし、この身近な飲み物が、実は私たちの歯に深刻なダメージを与えている可能性があると聞いたら、あなたはどう感じるでしょうか。

今回は、「コーラで本当に歯が溶けるのか?」という疑問を科学的根拠に基づいて解説しながら、口腔内で起きる現象やその対策方法について詳しく掘り下げていきます。

コーラが歯に与える影響は、単なる都市伝説ではなく、実際に臨床研究でも証明されている現象です。この記事を読み終える頃には、あなたもコーラを飲む前に一度立ち止まって考えるようになるかもしれません。

まずはそのメカニズムから解説していきましょう。

コーラで歯が「溶ける」とはどういうことなのか?

「歯が溶ける」とは、歯の表面を覆っているエナメル質が酸によって脱灰(だっかい)し、構造が壊れていく現象を指します。これを「酸蝕症(さんしょくしょう)」と呼びます。酸蝕症は虫歯とは異なり、細菌による酸の生成ではなく、外部から取り込まれた酸性物質(この場合は飲み物)によって引き起こされます。

コーラに含まれる主な酸性物質は以下の通りです。

・リン酸(Phosphoric Acid)
・炭酸(Carbonic Acid)
・クエン酸(Citric Acid)※一部製品に含まれる

コーラのpHはおおよそ2.5程度で、これはレモンジュースや酢と同じくらい強い酸性です。参考までに、口腔内の中性pHは約6.8〜7.0で、歯のエナメル質が溶け始める臨界pHはおよそ5.5とされています。つまり、コーラを口に入れた瞬間から、歯のエナメル質が脱灰を起こす可能性があるのです。

実験と研究から見る「コーラで歯が溶ける」現象

この現象は単なる理論ではなく、実際に数多くの研究によって裏付けられています。

アメリカのGeneral Dentistry誌に掲載された研究によると、人間の歯を各種飲料に浸す実験では、コーラが特に強いエナメル質の脱灰作用を示しました。この実験では、12時間コーラに歯を浸した場合、肉眼でもエナメル質の損傷が確認できたと報告されています(Reddy et al., 2011)。

さらに、歯の表面を電子顕微鏡で観察すると、微細なエナメル質のクラックや表面粗造が明らかになり、長期間にわたって頻繁にコーラを飲むことが、慢性的な酸蝕を引き起こすと結論づけられました。

一方で、歯科臨床における観察研究でも、炭酸飲料の摂取頻度が高い人ほど酸蝕症のリスクが高く、特に前歯の切縁部や臼歯の咬合面にダメージが集中する傾向があると報告されています。

子どもや若年層に特にリスクが高い理由

・子どものエナメル質は成人よりも薄く、脱灰しやすい構造
・炭酸飲料を好む傾向が強く、日常的に摂取する頻度が高い
・口腔ケアの意識が低く、飲んだ後にうがいや歯磨きをしないことが多い

これらの要因が重なることで、酸蝕症の進行が非常に早くなるケースが多く見られます。

特に問題なのは、「虫歯ではないから大丈夫」と思い込んで放置してしまうケースです。酸蝕症は痛みが出にくく、気づいたときにはエナメル質がかなり失われていることが珍しくありません。

酸蝕と虫歯の違い

酸蝕と虫歯は同じように歯が壊れていく現象ですが、原因と進行パターンには明確な違いがあります。

・虫歯:細菌が糖を分解して酸を作り、その酸が歯を溶かす
・酸蝕:飲食物などから直接取り込まれた酸によって歯が溶ける

虫歯はプラーク(歯垢)が関与するため、歯磨きやフロスである程度予防可能ですが、酸蝕は**「何を飲んでいるか」「どのように飲んでいるか」**が直接的な原因となるため、口腔ケアとは別軸での対策が必要です。

コーラによる酸蝕の症状とは?

コーラや他の酸性飲料によって引き起こされる酸蝕症には、以下のような症状が見られます。

・前歯の先端が薄くなって透けるように見える
・歯の表面がつや消し状になり、ざらざらとした感触に変わる
・冷たい飲み物や食べ物に対してしみやすくなる(知覚過敏)
・歯の形が平たくなったり、咬み合わせがずれてくる

これらの変化はゆっくり進行するため、本人が気づかないことも少なくありません。歯科医院での定期検診やフッ素塗布による予防的ケアが非常に重要です。

コーラを飲んでも歯を守るには?

とはいえ、完全にコーラをやめるのは難しいという人もいるでしょう。そこで、以下のような対策を取り入れることで、歯への影響を最小限に抑えることができます。

・ストローを使って歯に直接触れないようにする
・コーラを飲んだ後はすぐに水で口をすすぐ
・飲んだ直後は歯を磨かない(エナメル質が軟化しており、磨くことで削れる恐れ)
・キシリトール入りのガムを噛んで唾液の分泌を促す
・就寝前や起床直後など、口腔内が乾燥している時間帯の摂取を避ける
・週に何回、1日に何本という摂取回数・量を意識してコントロールする

さらに、フッ素入りの歯磨き粉を使うことで、再石灰化を促進し、エナメル質を強化する効果が期待できます。

歯科医による専門的な対処

すでに酸蝕の症状が見られる場合には、早めに歯科医院での相談が必要です。軽度の場合はフッ素塗布や再石灰化促進処置が行われますが、進行したケースではコンポジットレジンやラミネートベニア、クラウンによる修復処置が必要になることもあります。

また、酸蝕症が進行して象牙質まで露出している場合には、知覚過敏や二次的な虫歯のリスクも高まるため、より慎重な管理が求められます。

まとめ:コーラを楽しむには「飲み方」がカギ

コーラは確かに美味しく、手軽に楽しめる飲み物ですが、その酸性度の高さゆえに、歯に対してはリスクを伴います。
しかし、飲み方やケアの方法を工夫することで、歯の健康を守りながら上手に付き合うことは可能です。

最も大切なのは、「飲み方に気をつける」という意識を持つことです。
日常生活の中でちょっとした習慣を変えるだけで、歯の健康は大きく守られます。

コーラを飲むたびに「本当に歯が溶けるの?」と不安になるのではなく、「どうすれば歯に優しく楽しめるか」を考えることが、あなたの歯と長く付き合っていくための第一歩です。

参考文献:

Reddy A., Norris D.F., Momeni S.S., Waldo B., Ruby J.D. (2011). The pH of beverages in the United States. Journal of the American Dental Association, 142(9), 1107-1112.
Lussi A., Jaeggi T. (2008). Erosion—diagnosis and risk factors. Clinical Oral Investigations, 12(Suppl 1), S5–S13.
Zero D.T. (1996). Etiology of dental erosion—extrinsic factors. European Journal of Oral Sciences, 104(2), 162–177.
日本歯科保存学会:酸蝕症の診断と治療ガイドライン(2020年)
Ministry of Health, Labour and Welfare Japan, 食品のpH一覧表(2023年)

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