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昔の人と今の人ではなぜ歯の本数が違うのか?口腔環境の変化とその背景を徹底解説
現代の日本人にとって「80歳で20本以上自分の歯を保とう」という「8020運動」は広く知られていますが、そもそも昔の人々、特に江戸時代以前の人たちは、本当にそれほど歯を多く残していたのでしょうか?また、現代人と比べて「歯の本数に違いがある」と言われることがありますが、これは実際に歯の本数が違うのか、あるいは喪失や未萌出(生えていない歯)が多いだけなのか、という疑問が湧きます。
この記事では、昔の人(主に縄文時代~江戸時代)と現代人の歯の本数や状態の違いについて、解剖学・人類学・歯科医学の観点から科学的に解説します。食生活の変化、顎の成長、虫歯や歯周病の有無などを通して、「歯の数と健康」の真の意味を掘り下げていきます。

【1. 基本の理解:人間の歯の本数は何本?】
まず前提として、成人の永久歯の本数は基本的に28本(親知らずを除く)、親知らずを含めれば最大で32本が標準とされています。
つまり、「人間の歯の本数そのものに時代的な差はない」ことが大前提です。
では、なぜ「昔の人のほうが歯が多かった」「今の人は歯が少ない」と言われるのでしょうか?
この背景には、「実際に口腔内に生えている歯の数」「未萌出(生えていない)や先天欠如の数」「歯の喪失の有無」といった違いが関係しています。
【2. 昔の人は親知らずも含めて歯がしっかり生えていた】
縄文時代や弥生時代、さらには江戸時代の人々の頭蓋骨を調査した研究では、親知らず(第三大臼歯)まできれいに生えていた人が非常に多かったことがわかっています(※1)。
これは、当時の人々の顎の骨格が大きく発達していたため、歯が並ぶスペースが十分にあったからです。
また、食生活の違いも大きく影響しています。縄文時代や弥生時代は、
・硬いものをよく噛む(玄米、干物、雑穀、獣肉)
・加熱処理が不十分で咀嚼回数が多い
・乳幼児期からしっかり噛む食文化
といった特徴があり、それが顎の骨の発達を促進し、歯列(歯並び)全体がしっかり形成されたことに繋がっています。
結果として、親知らずも含めて28〜32本の歯がすべて萌出し、咀嚼機能を果たしていたというわけです。
【3. 現代人の顎はなぜ小さくなったのか】
一方、現代の日本人は「顎が小さくなっている」ことが問題視されています。主な原因は以下のように考えられています。
● 軟らかい食事の増加
・白米やパンなど、噛まなくても飲み込める食品が主流
・加熱調理や加工食品が中心になり、顎の刺激が減少
・乳幼児期から咀嚼回数が少ない食文化
● 口呼吸や低位舌(舌の位置が低い)などの生活習慣
・口がポカンと開いたままの癖
・姿勢の悪さや離乳食の与え方の変化が顎の成長を妨げる
これらの要因により、現代人は顎が小さくなり、それに伴って歯が並びきらず「親知らずが生えない」「歯並びが悪くなる」などの問題が起きているのです。
【4. 歯の先天欠如と現代人の問題】
近年、歯の「先天欠如」(生まれつき歯の本数が足りない)が増加していることが報告されています。特に第二小臼歯や前歯(側切歯)の欠如が多く、小児人口の約10人に1人は永久歯の先天欠如があるとされています(※2)。
これも現代の食生活や遺伝的影響、環境要因が複雑に絡み合って生じている現象であり、「歯の本数が少ない=現代病の一つ」とも言えます。
【5. 実際に歯が多く残っていたのはどちらか?】
では、実際に「晩年まで歯がたくさん残っていた」のは、昔の人と今の人のどちらなのでしょうか?
これは一概に言えませんが、研究によると、
・縄文人や弥生人の頭蓋骨には、歯がしっかり残っていることが多い
・しかし、虫歯や歯周病の痕跡も非常に多く、歯が折れていたり、欠損していることも多い
・江戸時代以降、白砂糖の普及により虫歯が急増し、若くして多くの歯を失っていた人が多い
といった特徴が見られます。
一方、現代人は8020運動などの努力により、近年は高齢者でも20本以上の歯を保つ人が増えているものの、現代特有の問題(親知らずの未萌出、先天欠如、矯正による抜歯など)も存在するため、口腔全体の状態が良好とは言い切れません。
【6. 顎の発達と歯並びの違い】
昔の人と今の人では「歯の本数」だけでなく、「歯の並び方=歯列」の状態にも大きな違いがあります。
昔の人:
・顎が大きく、歯が整然と並んでいた
・親知らずも正しく生えて機能していた
・過剰な矯正や抜歯が不要だった
今の人:
・顎が狭く、歯が重なっている「叢生(そうせい)」が多い
・親知らずが横向きに埋まってしまう「埋伏歯」が増加
・矯正治療において4本の小臼歯抜歯が必要なケースが多数
この違いは、審美性や咬合(かみ合わせ)だけでなく、呼吸、姿勢、嚥下、発音、さらには脳の発達にまで影響を及ぼすとされています。
【7. 歯の本数と健康寿命の関係】
近年の研究では、残っている歯の本数と健康寿命・認知機能に強い関連があることが明らかになっています。
・歯が20本以上ある人は、咀嚼能力が高く、脳への刺激も維持されやすい
・歯を失うことで、食生活の質が下がり、栄養状態が悪化
・口腔機能の低下はフレイル(虚弱)や認知症のリスクを高める
これにより、歯の本数の維持は単なる審美的な意味合いではなく、命の質(QOL)や寿命にも直結する健康指標となっています(※5)。
【まとめ:歯の本数は時代を超えて健康を映す鏡】
●「歯の本数自体」は昔も今も変わりません。しかし、「実際に生えて機能している歯の本数」は、時代や生活習慣によって大きく異なります。
●昔の人は顎の発達が良く、親知らずまで含めてすべての歯が生えていましたが、虫歯や歯周病で歯を失うことも多かった。
●現代人は医療の進歩により高齢まで歯を保つ人が増えた一方、顎の未発達や先天欠如により「歯が並びきらない」「そもそも本数が少ない」ケースが増加。
●食生活、子どもの頃の習慣、口呼吸や姿勢などが、将来の歯の数や健康状態に大きな影響を与えます。
つまり、歯の本数や口腔の状態は、時代の「生活の質」や「健康観」の写し鏡なのです。
現代に生きる私たちは、医療・衛生環境に恵まれているからこそ、より意識的に歯を守る努力が求められます。
【参考文献】
日本人類学会『縄文人と弥生人の歯列に関する比較研究』
厚生労働省「平成30年歯科疾患実態調査」
白水貿易「江戸時代の口腔衛生状態に関する研究」
Moss ML. “The functional matrix hypothesis revisited: 1. The role of mechanotransduction.” American Journal of Orthodontics and Dentofacial Orthopedics, 1997.
Kikutani T. et al. “Oral function and cognitive decline in the elderly: a review.” Gerodontology, 2015.
