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80歳で20本の歯を保つために:昔と今の歯の本数と健康意識の違いとは?
私たち人間の健康は「口から始まる」と言われるほど、歯の状態は全身の健康と密接に関係しています。現代の高齢者と過去の高齢者を比較すると、歯の本数に明らかな違いが見られます。昔の日本では、高齢になると「入れ歯が当たり前」とされていましたが、今は「自分の歯をできるだけ残す」ことが重要視される時代に変化しています。
では、なぜこのような変化が起きたのでしょうか?また、どのような取り組みが歯の本数を維持することにつながっているのでしょうか?この記事では、昔と今の日本人の歯の本数の違いとその背景、そして現在の歯科医療の進歩や予防の意識について詳しく解説します。
昔の日本人の歯の本数はどれくらいだったのか?
かつての日本では、高齢者の歯の本数が非常に少なく、60代で総入れ歯になることも珍しくありませんでした。1957年(昭和32年)に実施された調査では、65歳以上の高齢者の平均残存歯数はわずか4~5本程度だったという記録もあります。この時代には「年を取れば歯は抜けて当然」という考え方が一般的であり、歯を失うことに対する危機感は薄かったと言えるでしょう。
また、むし歯や歯周病に対する知識も乏しく、痛みが出るまで歯科医院に行かない人が大多数でした。予防歯科という概念も浸透しておらず、結果的に歯を失う原因となる疾患が放置されがちだったのです。
現代の高齢者の歯の本数はどう変わったか?
現代の日本では、歯科医療の技術進歩と予防意識の向上により、高齢者でも多くの歯を残している人が増えています。厚生労働省が行っている「歯科疾患実態調査」(最新は2022年)によると、75歳〜79歳の高齢者の平均残存歯数は15本以上にまで増加しており、80歳でも20本以上の歯を保つ人が増えてきています。
これは、8020運動(80歳になっても20本以上自分の歯を保とうという国民運動)の成果でもあります。1989年から始まったこの運動は、歯科医師会や行政機関、地域住民の協力により大きな社会的意識改革をもたらしました。
なぜこれほどまでに歯の本数が増えたのか?
いくつかの理由が考えられます。以下に主な要因を挙げてみましょう。
予防歯科の普及
昔と比べて、定期的な歯科健診やクリーニングを受ける人が増加しています。これにより、むし歯や歯周病を早期に発見・治療し、重症化を防ぐことができるようになりました。
フッ素の利用
現在では、歯磨き粉に含まれるフッ素の効果により、歯質が強化されむし歯になりにくくなっています。フッ素塗布やフッ化物洗口の普及も、歯の本数を保つことに貢献しています。
歯周病に対する意識の変化
歯を失う最大の原因である歯周病に対して、正しい歯磨き法や定期的な歯科受診の重要性が周知されるようになりました。
高齢者の栄養意識の向上
食生活の改善により、カルシウムやビタミンC・Dなど、歯や骨の健康を保つ栄養素を積極的に摂取する高齢者が増えています。これが歯の健康維持にも好影響を与えています。
医療技術の進歩
インプラントやブリッジといった欠損補綴技術の発展により、歯を失っても機能を補う手段が広がり、口腔全体の健康維持がしやすくなっています。
歯の本数が多い人ほど健康寿命が長い?
歯の本数と全身の健康との関連性も、多くの研究で明らかになっています。たとえば、ある研究では、残っている歯の本数が多い人ほど、認知症の発症率が低いという報告があります。また、噛む力がしっかりしている人は、バランス感覚や筋力も維持しやすく、転倒や骨折のリスクが低下するとも言われています。
さらに、自分の歯でしっかり噛めることにより、消化吸収が良くなり、栄養状態の改善にもつながります。高齢者の健康寿命を延ばすうえで、「自分の歯を多く残すこと」は非常に重要な鍵となるのです。
これからの時代に求められる口腔ケアとは?
近年では、若いうちからのケアが重要であるという認識が広がってきています。特に以下のような習慣は、将来の歯の本数を大きく左右すると言われています。
・定期的な歯科検診(最低でも年2回)
・毎日の正しいブラッシング
・デンタルフロスや歯間ブラシの活用
・糖分を控えたバランスの取れた食生活
・禁煙(喫煙は歯周病の大きなリスクファクター)
・ストレス管理(免疫力が下がると歯周病が悪化しやすい)
また、高齢者施設や介護の現場でも、口腔ケアが注目されるようになってきました。高齢者の誤嚥性肺炎を防ぐためにも、口腔清掃や咀嚼能力の維持は欠かせません。
子どもの頃からの教育が未来の歯の健康を守る
子ども時代の歯科教育のあり方も、将来の歯の本数に直結しています。最近では、保育園や小学校での歯磨き指導やフッ素洗口などが積極的に行われています。特に乳歯のむし歯は将来の歯並びや永久歯の健康に深く関わるため、早期の予防が極めて重要です。
家庭でも、親が手本となって正しい歯磨きを教えることで、子どもの歯に対する意識が育ちます。このような教育が広がれば、将来の日本人の平均残存歯数はさらに向上することが期待されます。
まとめ:過去と今を比べて見えた口腔ケアの進化
・昔の高齢者は歯を失うことを「仕方がない」と考えていた
・現代は予防歯科の普及により、高齢者でも多くの歯を残せる時代に
・歯の本数が多いほど健康寿命が長くなる傾向がある
・定期検診や毎日のケアが将来の歯の健康を守る鍵
・子どもの頃からの教育も歯の本数に大きく影響する
このように、昔と今の人々の歯の本数の違いは、社会全体の意識改革と医療技術の進歩によって生まれた成果です。これからも「80歳で20本の歯を残す」ことを目指して、日々の生活の中で歯を大切にする意識を持ち続けることが大切です。
参考文献
・厚生労働省「歯科疾患実態調査(2022年)」
・日本歯科医師会「8020推進財団報告書」
・小林芳夫ほか「高齢者の歯の本数と全身疾患との関係」『日本老年医学会雑誌』
・日本口腔衛生学会「口腔保健のエビデンスに基づく介入」
・岡山大学大学院医歯薬学総合研究科「歯の喪失と認知症発症のリスク」